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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)8485号 判決 1997年5月28日

原告

田村隆幸

右訴訟代理人弁護士

谷英樹

被告

ティーエム株式会社

右代表者代表取締役

兒嶋高儀

右訴訟代理人弁護士

森谷昌久

主文

一  被告は、原告に対し、一一七万九九二〇円及びこれに対する平成七年七月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告に対し、四四万三一六〇円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、二四七万八二七〇円及びこれに対する平成七年七月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告に対し、四九万〇七一〇円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(一)  被告は、音響機器の製造販売を業とする会社である。

(二)  原告は、被告との間で、昭和五九年九月一日、職務内容を音響機器(カラオケ)の営業とし、賃金は毎月一五日締め月末払いで月額四一万九四六〇円を支払うものとする雇用契約を締結した。

2  未払賃金

(一) 原告は、被告に対し、次のとおりの賃金債権を有する。

平成五年二月分ないし平成六年八月分

各月四四万円

合計(一九か月間) 八三六万円

平成六年九月分ないし平成七年三月分

各月五四万円

合計(七か月間) 三七八万円

平成七年四月分ないし平成七年五月分

各月四六万円

合計(二か月間) 九二万円

平成七年六月分 四六万四二〇〇円

(二) しかるに、被告は、原告に対し、原告の右賃金のうち次の金員を支払わない。

平成五年二月分ないし平成六年二月分

各月五万二八〇〇円

合計(一三か月間) 六八万六四〇〇円

平成六年三月分ないし同年五月分、九月分、一〇月分

各月六万四八〇〇円

合計(五か月分) 三二万四〇〇〇円

平成六年一一月分 六万四八〇〇円

一四万二五六〇円

平成六年一二月分 六万四八〇〇円

平成七年一月分 六万四八〇〇円

五万四〇〇〇円

平成七年二月分 六万四八〇〇円

五万四〇〇〇円

平成七年三月分 六万四八〇〇円

平成七年四月分 二万三〇〇〇円

一万円

平成七年五月分 二万三〇〇〇円

平成七年六月分 四六万四二〇〇円

以上合計 二一〇万五一六〇円

(三) 原告は、被告から、平成六年五月三一日、同年四月分、五月分の未払賃金の一部として一一万七六〇〇円の支払を受けた。

(四) したがって、被告は、原告に対し、未払賃金として、二一〇万五一六〇円から一一万七六〇〇円を控除した残額の一九八万七五六〇円を支払うべき義務がある。

3  解雇予告手当

(一) 被告は、原告に対し、平成七年六月一五日、翌一六日付けで解雇する旨の意思表示をした。

(二) 原告の過去三か月分の賃金合計を右三か月(九二日)で除した額の三〇日分は、以下の計算とおり、四九万〇七一〇円である。

平成七年三月分(三一日) 五五万三三二〇円

平成七年四月分(三〇日) 四七万四〇八〇円

平成七年五月分(三一日) 四七万七四二〇円

合計 一五〇万四八二〇円

平均賃金 一五〇万四八二〇円÷九二日=一万六三五七円

解雇予告手当 一万六三五七円×三〇日=四九万〇七一〇円

(三) したがって、被告は、原告に対し、右解雇予告手当として四九万〇七一〇円を支払うべき義務がある(労働基準法二〇条)。

4  付加金

被告は、原告に対し、右解雇予告手当を支払わないが、これは労働基準法二〇条違反であるから、裁判所は、被告に対し、右解雇予告手当と同額の付加金の支払いを命ずるべきである(労働基準法一一四条)。

5  よって、原告は、被告に対し、雇用契約に基づく未払賃金合計一九八万七五六〇円、労働基準法二〇条に基づく解雇予告手当四九万〇七一〇円の合計二四七万八二七〇円及びこれらに対する弁済期の後の日(ただし、平成七年六月分の賃金四六万四二〇〇円については弁済期の翌日)である平成七年七月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、並びに、労働基準法一一四条に基づき、付加金四九万〇七一〇円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みに至るまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(当事者等)は、雇用契約の開始時期及び賃金支払日の点は争い、その余は認める。

被告が原告を採用したのは、昭和五九年九月二〇日である。賃金の支払時期は、平成六年一〇月までは毎月末日であったことは認めるが、同年一一月分から、翌月五日となったものである。

2(一)  同2(未払賃金)のうち(一)ないし(三)は認める。

(二)  同2(四)は、被告が、原告に対し、同人の賃金のうち一九八万七五六〇円を支払っていない点は認め、支払い義務については争う。

3  同3(解雇予告手当)(一)は否認し、(二)(三)は争う。

4  同4(付加金)の事実のうち、被告が原告に解雇予告手当を払っていない点は認め、その余は争う。

三  抗弁

1  賃金引下げの合意(請求原因2に対し)

(一) 被告は、平成五年二月五日、被告会社社長、取締役、都市部における所長以上で構成した被告リストラ対策委員会において、同年二月分から以後、営業所長については賃金(当時の原告の賃金月額は四四万円)の一二パーセント(当時の原告については五万二八〇〇円)を、また、一般従業員については賃金の五パーセントを削減する旨申し入れたところ、当時、被告の北営業所(大阪市内所在)所長であった原告は、これを承諾した。

(二) 原告は、平成五年一二月から賃金が月額五四万円に昇給したので、削減されるべき金額はその一二パーセントに当たる六万四八〇〇円となったが、経理上のミスのため、平成六年二月分の賃金まで、五万二八〇〇円を削減したにとどまっていた。

(三) 被告は、平成七年四月、原告の所長職を免じて一般従業員としたので、以後、原告につき、その賃金(月額四六万円)の五パーセントである二万三〇〇〇円を削減することとした。

(四) よって、被告は、賃金引下げの合意により、原告の賃金から合計一二五万〇八〇〇円を削減した。

なお、右合計一二五万〇八〇〇円の内訳は次のとおりである。

平成五年二月分ないし平成六年二月分

各月五万二八〇〇円

合計(一三か月分) 六八万六四〇〇円

平成六年三月分 六万四八〇〇円

平成六年九月分ないし平成七年三月分

各月六万四八〇〇円

合計(七か月分) 四五万三六〇〇円

平成七年四月分ないし同年五月分

各月二万三〇〇〇円

合計(二か月分) 四万六〇〇〇円

以上合計 一二五万〇八〇〇円

2  営業成績不振等による減給(請求原因2に対し)

(一) 被告は、原告に対し、原告の平成六年一一月分の賃金のうち一四万二五六〇円、平成七年一月分及び二月分の各賃金のうち五万四〇〇〇円、同年四月分の賃金のうち一万円の合計二六万〇五六〇円を、原告の営業不振等を理由として減給した。

(二) 被告は、右減給について、それぞれの減給の日以前に、東京の被告営業所又は大阪の被告社長室で、減給の理由を説明し、口頭で原告から同意を得たものである。

その減給の理由は、原告が東京の被告営業所在勤中、営業中に自動車で寝ていたことや、駐車場で寝ていたこと、被告代表者の代りに顧客と面談するという指示を守らなかったこと、原告の所属する営業所の成績が損益分岐点に達しなかったことである。

(三) 仮に右減給に対する原告の同意がなかったとしても、被告は、前同様の理由の下に、被告会社就業規則五〇条二項(業務上の怠慢により会社に損害を与えたとき)、三項(素行不良で会社の秩序または風紀を乱したとき)に該当するものとして、原告の賃金について懲戒処分として減給処分をしたものである。

四  抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1(一)のうち、平成五年二月当時、原告が被告の北営業所長であったこと、原告の賃金が月額四四万円であったこと、被告が原告に対しその賃金の一二パーセント(一般従業員については同五パーセント)を削減する旨の申し入れをしたことは認め、その余は否認する。

被告会社において、リストラ対策委員会を組織したことはない。被告の経営陣が月例の所長会議で賃金カットを実施する旨一方的に述べたことがあるだけで、真意に基づいた同意はなかった。

(二)  同1(二)のうち、原告の賃金が平成五年一二月から月額五四万円に昇給したこと、その一二パーセントが六万四八〇〇円となることは認め、その余は否認する。

(三)  同1(三)のうち、原告が平成七年四月に所長職を免じられたことは認め、その余は争う。

(四)  同1(四)は争う。

2(一)  同2(一)は認める。

(二)  同2(二)のうち、被告主張の減額分が営業不振による減給である旨口頭で告げられたことがあることは認め、その余は否認する。

(三)  同2(三)は否認する。なお、被告による懲戒処分は、いずれも法定の制限(労働基準法九一条)を超えてなされたものであるから無効である。

五  再抗弁

公序良俗違反(抗弁1に対し)

(一)  使用者が、いったん定められた賃金を全社員との間で一律に減額する旨の合意をする場合には、単に当事者間の合意のみならず、これを正当化する高度の必要性、合理性が認められなければならないのであって、そのような高度の必要性、合理性が欠ける場合には、右合意は、要件を欠くものとして無効であるか、又は公序良俗に反するものとして無効である。

(二)  被告は、被告のリストラが問題になったころにおいて、外国車や愛人に無駄な経費を使う一方で、営業に必要な車両を削減するなど、本末転倒の行為に及んでいたのであるから、本件の賃金引下げの合意は、有効要件を欠き、または公序良俗に反して無効である。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁は争う。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因1(当事者等)について

1  請求原因1の事実のうち、雇用契約の開始時期、賃金支払日を除いた事実は、当事者間に争いがない。

2  弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる(書証略)によれば、原告が被告に入社したのは昭和五九年九月二〇日であると認められ、右認定に反する原告の供述は、(書証略)に照らし、採用できず、その他右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  被告代表者尋問の結果により真正に成立したものと認められる(書証略)(被告会社就業規則)によれば、賃金の支払日は毎月末日(同三三条一項)と規定されていることから、原告の賃金の支払い日は毎月末日と認められ、右認定を覆すに足りる証拠はないし、原・被告間において、右支払日を翌日五日に変更する旨約したと認めるべき証拠もない。

二1  請求原因2(未払賃金)について

(一)  同(一)ないし(三)の各事実は当事者間に争いがない。

(二)  同(四)の事実のうち、被告が、原告に対し、同人の賃金のうち一九八万七五六〇円を支払っていない点は、当事者間に争いがない。

2  抗弁1(賃金引下げの合意)について

(一)  被告が原告に対して抗弁1(一)記載の賃金削減の申入れをしたことは、当事者間に争いがない。

(二)(1)  成立に争いのない(書証略)中の氏名欄及びカット率欄、被告代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる(書証略)原告本人尋問の結果によれば、以下の事実が認められる。

(2)  被告は、カラオケのリース、卸業務、販売を業として営んでいるところ、いわゆるバブル経済の崩壊後、顧客が減少していたので、平成四年夏ころから、被告の代表者、取締役、都市部における所長以上で構成する月例会で、被告のリストラを議題として検討し、原告もこれに出席していた。

被告は、平成五年二月五日、被告の所長以上を構成員としてリストラ案について検討する特別会議を招集し、原告もこれに出席した。この会議では、被告の濱田本部長及び名取部長から人件費等の削減の提案がなされ、その趣旨説明があった。右趣旨説明の中で、役職ごとの人件費のカット率が提示された。その率は、所長が一二パーセント、一般社員が五パーセントであった。これに対し、いずれの営業所長も、異議を述べることはなかった。

そして、原告は、被告の濱田本部長の命により、右特別会議のあった平成五年二月五日ころ、営業所長として、同日付けで人件費リストラ表と題する表に、原告が当時営業所長を務めていた被告北営業所の、自己を含めた社員の氏名及びその役職ごとの賃金カット率をそれぞれ記載し、これを被告に提出した。その際、他の各営業所長も、それぞれ同様の人件費リストラ表を作成し、これを被告に提出した。なお、被告の右人件費削減の措置に不満を感じた北営業所の社員の中には、被告を退職した者もいたが、原告自身は、退職することもなく、長年にわたって賃金が削減されることに対し、被告に異議を申し入れることもなかった。

(3)  以上の事実を総合すると、原告は、被告が経営不振の状態にあると認識のうえ、他の営業所長とともに被告のリストラ策を検討する特別会議に出席し、被告からの人件費削減の提案に対し、格別異議を唱えることもなく、これを了解し、右会議の直後には、自己を含む営業所の各社員について、賃金のカット率を記載した人件費リストラ表を作成し、これを被告に提出するなどして、これを容認していたことが認められるのであるから、原告は、被告による賃金引下げの提案を止むを得ないものとして了承し、その真意に基づいて右引下げに同意したものと認めることができる。右認定に反する原告本人尋問の結果は、(証拠略)に照らし、採用することができない。

(三)  この点、原告は、再抗弁において、右賃金引下げの合意は公序良俗に反し、無効であると主張するので検討する。

しかしながら、賃金引下げの合意は、これを正当化する高度の合理性、必要性が認められない限り無効となるというべき根拠はない。また、本件において、その他これを公序良俗に反して無効であるというべき証拠もない。

したがって、この点の原告の主張は採用できない。

(四)  そして、成立に争いのない(書証略)弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる(書証略)及び弁論の全趣旨によれば、原告の賃金につき被告が抗弁1(四)記載のとおり、合計一二五万〇八〇〇円を削減したことが認められるところ、右削減をするについては、右引下げの合意に基づくので、正当な理由がある。

3  抗弁2(営業成績不振等による減給)について

(一)  抗弁2(一)(被告による原告の減給の事実の存在)は、当事者間に争いがない。

(二)  抗弁2(二)(右減給に対する原告の同意)について判断する。

(1) 原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

被告代表者は、平成五年ないし平成六年ころの月例会議において、原告を含めた出席者に対し、ノルマを達成しなかった営業所に所属する従業員の賃金をカットすると提案したが、その際には具体的なノルマの基準や賃金カット率の数字は出されなかった。原告を含めた出席者は被告代表者から威迫等を受けるおそれがあったため、反対できなかった。原告は、被告から減給された平成六年一一月分は、月初めの月例会で「営業成績が悪かったら賃金をカットする」「賃金カット率は給与の三〇パーセントである」と告げられ、平成七年一月分、二月分も賃金カット率が給与の一〇パーセントとなる以外は前同様に告げられたものの、平成七年四月分は、事前には減給についてなんら告げられていなかった。また、いずれの減給時においても、原告は、被告から、右減給が抗弁2(二)記載の理由によるものであるとの説明は受けなかった。

もっとも、この点、被告代表者は、本件各減給について、それぞれの減給以前に、東京の被告営業所又は大阪の被告社長室において減給の理由を説明し、口頭で原告から同意を得たと供述するが、被告代表者の右供述は、原告に減給を告げた日時、場所について曖昧であり、かつ、その際にどのような内容の減給を行うのか、減給の理由は何かという点について、どのように告げたのか明確性を欠くので、採用することができない。

(2) よって、本件各減給につき原告の同意があったと認めるに足りる証拠はない。

(三)  抗弁2(三)(原告に対する懲戒処分としての減給)について判断する。

原告本人尋問の結果によれば、被告代表者は、原告に対し、本件各減給の際、これが被告就業規則に基づく懲戒処分としてなされたものであるとも、各処分ごとに具体的に懲戒事由がいかなるものであるかも説明していないことが認められる。右認定に反する被告代表者尋問の結果は、その内容が曖昧であるうえに、当初は右減給を懲戒処分ではないと供述していたのに、後にこれが懲戒処分としてなされたものであると供述を変遷させ、一貫性を欠いているので、採用することができない。

よって、被告による原告の減給は、懲戒処分であると認めるに足りる証拠はない。

(四)  以上によれば、被告が原告の賃金から原告の営業成績不振等を理由に合計二六万〇五六〇円を減給するについては正当な理由がない。

4  したがって、被告は、原告に対し、請求原因2(四)記載の未払賃金一九八万七五六〇円から抗弁1記載の合計一二五万〇八〇〇円を控除した七三万六七六〇円を支払うべき義務がある。

三  請求原因3(解雇予告手当)について

1  請求原因3(一)(被告による原告に対する解雇の意思表示)について判断する。

手書き部分を除いて成立に争いのない(書証略)(手書き部分は被告代表者尋問の結果によって真正に成立したものと認められる)、原告本人尋問の結果及び被告代表者尋問の結果によれば、次の各事実が認められる。

(一)  原告は、以前自己が担当していた顧客から、新たにカラオケを設置する依頼をしたのに設置されていないとのクレームが付けられ、当時の営業担当者では手に負えなかったことから、平成七年六月一〇日及び一五日ころ、当該顧客の店舗に、一度は被告代表者とともに赴き、契約解除を避けるため交渉をしたが、結局、契約の解除を止めることはできなかった。被告代表者はこの結果に激怒し、平成七年六月一五日、原告を罵倒し、「辞めろ、明日から来るな」と電話で言い渡した。

(二)  そのため、原告は、解雇されたものと思い、平成七年六月一六日以降、被告に出社をしなかった。

(三)  右認定の事実によれば、被告は、原告に対し、平成七年六月一五日、翌一六日付けで原告を解雇する旨の意思表示をしたものと認められる。

もっとも、右認定に反する証拠として被告代表者尋問の結果が存するが、右は、前記クレームの処理について大筋で認めながら解雇の意思表示の点について曖昧な供述をしていること、原告が平成七年六月一六日以降に被告に出社していない理由について合理的に説明できないことから、これを採用することはできず、その他右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  請求原因3(二)(解雇予告手当額)について判断する。

成立に争いのない(書証略)によれば、原告の過去三か月分の賃金の合計を右三か月(九二日)で除した額の三〇日分は、以下の計算のとおり、四四万三一六〇円であると認められる。なお、前記二(二)で認定のとおり、賃金引下げについては原告の同意があったものと認められるが、営業成績不振等を理由とする減給は認められないので、原告の平均賃金の算定においては、同意による賃金引下分(平成七年三月分は六万四八〇〇円、同年四月分及び五月分は二万三〇〇〇円)を控除し、営業不振等による減給分(平成七年四月分のうち一万円)を控除しない額を基礎とすべきこととなる。

平成七年三月分(三一日) 四八万八五二〇円

平成七年四月分(三〇日) 四五万一〇八〇円

平成七年五月分(三一日) 四一万九四六〇円

合計 一三五万九〇六〇円

平均賃金 一三五万九〇六〇円÷九二日=一万四七七二円

解雇予告手当 一万四七七二円×三〇日=四四万三一六〇円

四  請求原因4(付加金)について判断する。

1  請求原因4のうち、被告が原告に対して解雇予告手当を支払っていないことは、当事者間に争いがない。

2  三2によって認定したとおり、解雇予告手当金の額は四四万三一六〇円であるから、付加金として右同額の四四万三一六〇円の支払を命ずるのが相当である。

五  結論

以上の事実によれば、原告の請求は、請求原因2(四)記載の未払賃金一九八万七五六〇円から抗弁1記載の合計一二五万〇八〇〇円を控除した七三万六七六〇円、解雇予告手当四四万三一六〇円の合計一一七万九九二〇円及びこれに対する弁済期の後の日(ただし、平成七年六月分の賃金四六万四二〇〇円については弁済期の翌日)である平成七年七月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、並びに、付加金四四万三一六〇円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中路義彦 裁判官 長久保尚善 裁判官 森鍵一)

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